熊本県3つの日本遺産サミット2021 開催レポート
2021年2月12日(金)に、山鹿市八千代座をメイン会場(パブリックビューイング会場)、TKP熊本カンファレンスセンターをサテライト会場として、オンラインでの配信によって開催された「熊本県3つの日本遺産サミット2021」。 熊本県立大学の学生による「菊池川流域」「人吉球磨」「八代市」の各日本遺産の紹介をはじめ、 観光危機管理のあり方、ガイド人材の現状と発展に関するミニトーク、ディスカッションなど新たな観光のあり方を提案した5時間をレポートします。
【八千代座会場】
玉名市長による開会のご挨拶
最初に、熊本県玉名市・藏原 隆浩 (くらはら たかひろ)市長に、開会のご挨拶をいただきました。 人吉球磨地域、八代市の昨年7月の豪雨災害に際しての被害に対してのお悔やみ、亡くなられた方への哀悼の意、復興への祈念を表されました。 また、新型コロナウィルス感染拡大に際して、開催方法を模索し、オンラインでの配信を実施した主催者や事務局への感謝の言葉をいただきました。日本遺産の認知度向上や認定ストーリーの理解・活用がまだまだ十分でないなか、この民間主体でのサミット開催が、課題解決、魅力的なコンテンツとしての利活用、三地域の相互研鑽を深める一助になるよう、期待を表明されました。
次に、文化庁 審議官 出倉 功一さまよりのご挨拶を司会が代読。 文化庁が日本遺産の認定をはじめてから6年が経ち、2021年に全国47都道府県に104件となり、 熊本県においては平成27年度に人吉球磨「相良700年が生んだ保守と進取の文化」、平成29年度に菊池川流域「米作り、二千年にわたる大地の記憶」、そして令和2年度に「八代を創造した石工たちの軌跡」が認定され、精力的に取り組んでいること、 日本遺産認定を一つのきっかけとして、各地域における連携を充実させ、地域内の方々や、地域を訪れる国内外の多くの人に対し、魅力ある文化を発信し続けることを期待するメッセージをいただきました。
続いて、熊本県観光協会連絡会議 赤木聖一会長より、趣旨説明を行いました。 『熊本県観光協会連絡会議』は、2020年3月、コロナウィルス感染拡大を機に、地域の課題を共有し、難局を乗り越えようと熊本県内の観光協会の事務局長の有志で立ち上がった団体であり、ウェブ会議やSNSでの情報交換、市場調査を実施。昨年7月の豪雨災害で甚大な被害を受けた人吉球磨地域で、『豪雨災害がなければ日本遺産サミットをやりたかった』との意向をうけて、それぞれ役割分担をし、本サミットを開催に向けて準備。それぞれの地域が持っている価値を、観光という切り口で価値の創造につなげたいと意気込みを語りました。
■今回の参加者
約200名の参加者構成は下記グラフの通り。ガイドの方々の参加も2割ありました。
【八千代座会場】
熊本県立大学 学生3グループによる3つの日本遺産の紹介
熊本県立大学総合管理学部髙濱信介さんの指導により、今回のサミットのためになんと5ヶ月の月日をかけて準備をした、各10分のプレゼンテーションが行われました。現地に足を運び、フィールドワークにより学生主体で練られた発表は、改めて熊本県の3つの日本遺産の知られざる魅力や活用法のヒントになりました。
【1】菊池川流域「米作り、二千年にわたる大地の記憶」
「菊池川流域では2000年前から米作りが盛んであり、その歴史を継承するためには何をすればよいか」という課題に臨んだこのグループ。「若者が知るきっかけを作るために、若者も参加しやすいイベントを開催する」という提案をしてくれました。そのイベントの一つが『お米のアイデアおつまみ選手権』。 菊池川流域の米を使ったお酒に合うおつまみ NO.1 を決定するもので、そのおつまみにも菊池川流域の米を使用することが条件です。地元の酒蔵が審査し、好評だったものはHPやSNSで拡散することで、「認知度向上とリピーターの獲得につながる」とのアイデアは説得力がありました。
【2】人吉球磨「相良700年が生んだ保守と進取の文化」
まず最初に、源頼朝の名により、静岡から人吉球磨地域を治める相良氏が、今まで通りの生活文化を認めて民を治めた歴史をユニークなイラストで紹介。「うんすんカルタ」や「球磨拳」、お米からできた酒を民が飲むことを大目に見ることで民心をしっかり掌握。神社や寺を建立するなど、領主と民が一体となって相良文化を育んでいきました。現代に触れることができる青井阿蘇神社や青蓮寺阿弥陀堂(阿弥陀三尊)、球磨焼酎、球磨拳を解説。「球磨拳?」と思われた方はぜひ動画をご覧ください。練習してもできるかな? という速さです。実演にあわせて、球磨拳の伝承法のアイデアがプレゼンされています。
【3】 八代を創造した石工たちの軌跡〜石工の郷に息づく石造りのレガシー~
長崎をはじめ各地で見られる眼鏡橋。上からの重さに強く、コスパがよく、メンテナンスもあまり必要ないというメリットを持つ石橋は、日本全国に2000橋あると言われていますが、そのうちの1800橋と9割が九州にあるとのこと。 石橋の原材料である 「凍結凝灰岩」が採れるというだけでなく、八代平野の大規模な干拓事業で活躍した石工たちの活躍があります。八代の干拓事業で功績をあげ、職人でありながら名字を名乗ることが許された岩永三五郎と熊本の通潤橋や東京の神田万世橋を手がけた名石工・橋本勘五郎を紹介。 学生自身が撮影した八代のおすすめ石橋と周辺スポット動画も必見です。
【熊本会場】
基調講演
「被災企業・地域に必要なマインド 観光は復興の推進力だ!」
ここからは熊本会場でのオンライン配信を八千代座にもつないでの開催内容をレポートします。
瀬崎公介氏は、熊本県上天草市の出身で、上天草市で株式会社シークルーズの代表取締役として、定期航路運行や滞在型宿泊施設や観光施設を運営。2018年8月に金融機関の仲介で経営再建の要請により、人吉市の第3セクターで、倒産寸前の状況だった「くま川下り」の経営再建を引き受けることに。わずか5ヶ月後の2019年1月に正式に代表取締役に就任し、料金体系及び出航時刻の見直し、WEB機能の充実及び旅行会社との連携を強化、保津川下りから譲渡を受けた船をリニューアルし水戸岡鋭治氏デザインの新型船の導入など様々な改革を行ったそう。2019年9月~11月の秋季は前年比150%、12月〜2月の冬季は過去10年で最高の乗客数と改革の効果が出始めていた頃に、新型コロナウィルスの感染拡大、2020年7月の豪雨被害で壊滅的な被害を受けたといいます(12隻全てが流出。数隻を除いて使用不可能など)。冒頭から参加者が思わず引き込まれるお話でしたが、講演はここからが本題です。
「企業経営者が伝えたい、災害時に大切な3つの必要性」
1.常に最悪を想定して対応することの必要性(自然災害だけでなく、会社経営においても)
2.冷静な判断の必要性
当時大阪出張中だった瀬崎氏は戻ることより、復旧方法を検討することを優先、復旧作業前の状態の写真をしっかり撮影する事を指示など。
3.業務のオンライン化・データクラウド化の必要性
浸水によって当社の全てのパソコンやデスク、書棚が水没したにもかかわらず、ほぼ全てのデータを電子化してクラウド上に保存していたため、保険手続きや各種申請が可能に。
被災後わずか半年で再建計画を発表し、被災した発船場をHASSENBAとして、人吉球磨の復興のシンボルにする活動の取組の詳細も力強く示されます。
観光事業者ならずとも必見の内容です。ぜひ動画をご覧ください。
【熊本会場】
ミニトーク
熊本会場からオンライン配信による6人のミニトークが展開されました。ガイド団体の運営、ガイド人材育成などにとって重要なヒントにあふれていました。(会議直前にPCR検査を済ませています)
【1】お客様に喜ばれるガイドのシナリオ作りのポイント
「佐賀城ナイトウォークツアー」など、地元の歴史や伝説を活かしたまちあるきをプロデュースし、顧客満足率96.8%を獲得した桜井氏が、「シナリオ作りの順番」、仕上げの3大スパイス「今だけ、ここだけ、あなただけ」など具体例を挙げて解説。ガイドやまちあるき商品を作る際のポイント満載です。
【2】ガイドの組織運営について
なんのためにガイドをするのか「ガイド組織の“理念”」「ビジョン」を話し合うことが必須であること、全国のガイド団体の現状では、「後継者不足」が課題で、育成体系の整備・運営体制・報酬形態に要因があると推測されるため、マーケティングの4Pをガイド業に適用し、利用者目線での現状分析と見直しのすすめが提案されています。今一度、組織を見直す指標になるミニトークです。
【3】ガイド予約の受付手法と顧客アンケートの利活用
インターネットの検索結果に表示される上位100団体の調査では、「予約受付の方法はFAXが93%ともっとも多く、オフラインが多く、オンラインが少ない」という現状が浮き彫りに。本サミットの事前アンケートでも同様で、改めてオンラインのメリットや機能を整理。お客様アンケートの実施、活用もされていない実態も報告され、「現状把握が効果的な改善の第一歩」であることが、わかりやすく解説されています。
【4】新しい技術を導入した地域案内の可能性
※YouTube動画非公開
数々の事業創造に携わってきた渡邉氏による、新型コロナの感染リスク増や、個人旅行者の増加により、即応性が求められているが当日対応が厳しいというガイドを取り巻く現状の変化をふまえたうえで、リアルとサイバーを融合したNECの「SSMR(音響・映像AR)」が、案内ガイドが案内できず取りこぼしていたところをサポートするという提案です。https://ssmr.jp/
【5】九州観光促進プラットフォームreQreate(レクリエイト)紹介
九州電力が地域活性化に寄与するプロジェクトとして始動した「reQreate」。「世界を楽しくするために、『九州』というエンターテイメント・アイランドを世界に届ける」という意志のもとに、地域と共創し、今までの魅力あるものを掛け合わせて、今の新しい魅力に再創造しています。地域資源の高付加価値化として「八千代座プレミアムディナー」、特産品開発やコンテンツの配信(オンラインツアー)などを手がけています。
【6】魅力的なガイド方法について
観光地「五家荘」がある熊本県泉町の本協会は、1998年に設立され、「登山(トレッキング)」「観光」「体験」「語りべ」のチームで活動。ガイド活動の充実と継続について、リアルな実践の話を提示されました。料金の10%をガイド協会の事務手数料として徴収し、事務局の活動費に充てる、ガイド依頼は、専用用紙でFAXまたはメール受付をし、事務局で一元管理し、対応スタッフを調整・派遣するなど参考にしたいポイントがたくさん含まれています。
【熊本会場】
パネルディスカッション
熊本会場は室田氏がモデレータとなり、4つのテーマについてパネルディスカッションを行いました。事前にポイントを書き出したスライドの通り、多様な意見やアイデアが提示されました。
【1】コロナ禍における将来のガイド像について
炭氏「ガイドの際の基本ガイドラインを決定し、感染症対策が大切」
渡邊氏「高齢化などもあり、ガイドさんがいなくても案内ができる仕組みづくり」
原氏「ガイドがオンラインによるリアルタイムで案内、オンライン・オフラインどちらでも使えるハイブリッドなシステム」
【2】 ガイドのサービス向上・有料化
桜井氏「47%とは、夜のツアー時の当日限定の店のクーポンを使った人の数で、ものすごく高い。ガイドが夕方にお店をまわって、今日の目玉をきいておき、参加者に伝えると口コミに。まちのPR担当。」
小柳氏「今月はいくら稼がないといけないのか」という数値を明確にしておくことが大事。」
原氏「有料化は質の向上につながる。コロナ禍で新しいモデルが出るのではないか」
渡邊氏「チップ制や満足度払いのようなサービス、システムもある」
炭氏「ガイドの質を保たないといけない。基本的な情報は画一的におさえて、+アルファで自分の魅力を肉付けをして、努力していく仕組みづくりを」
【3】 ガイドの後継者育成
桜井氏「シナリオは憲法みたいなもので、それをもとにそれぞれのガイドがエピソードやアレンジを加えていくブレンドが大事。
『アプローズシステム』とは、ツアー終了後その場でお客様アンケートを読み上げて、満足度の高さや結果を振り返りを称賛する。成功体験を感じることが大事」
小柳氏「地域にいいものがあっても子どもたちに継承されていない。例えば、神楽や地域のお祭りを確実に後世に残していくにはシナリオが必要なのではないか」
渡邊氏「塾行く感覚で、外国人に案内したい、外国語を学びたい学生をガイドにする。感動体験が将来的にはガイド人材につながる」
原氏「SNSなどで海外の人とコミュニケーションをとれてつながる時代。若い人も「もてなしてあげたい」と思う。シナリオがいくつかあると、それを発信して「あなたに会いにきた」というファンが来てくれるようになるのでは」
炭氏「きっちりと対価がとれて、自分をリクエストしてくれる人が増える自走していく状況ができると、生業にする人も増える」
【4】 多言語の案内や外国語対応
桜井氏「事業者は、自分の想いを伝えてくれるガイドを自分で見つける、スカウトすることが大事。ガイド団体は、無理せず、内容をしっかり日本語で伝えて、それを通訳にお願いしては」
渡邊氏「ガイドとの触れ合いに価値があり、言語はそこまで問題ではなく、熱意、ホスピタリティ精神は必ず伝わる」
炭氏「(地域ごとの)戦略を練っていくことが必要。どの地域からのお客様に対してなのか需要をみきわめ、魅力を伝えていく」
原氏「お客様からの需要を察知することが大事。オンラインだと地理的な近さは問題ではなくなったうえに、九州の魅力は欧米豪に響くのでは」
小柳氏「地域ごとに(外国人の来訪)状況は違いがある。各地域が単体で取り組むのは非常に難しい。県内全域で連携して派遣できる仕組みができるといい。熊本城のように外国人客が多い場所は、週一日英語でのツアーを設定するなど地域にあわせた取組を」
桜井氏「インバウンドに関しては、行政が音頭をとることが大事」
【八千代座会場】
クロージング